2024年3月30日土曜日

オッペンハイマー観てきた

     オッペンハイマーがようやく日本でも公開されたので、さっそく観てきた。初見の感想としては「これみんな話分かってるの?」だった。正直なところ結構難しい。

以下ネタバレあり。

 僕は兵器や科学について興味があるし、偉人や科学者のWikipediaもよく読むので、映画の登場人物が誰で何をした人なのかはだいたい把握している。でも仮にもしそういう予習が無かったら、いまいちよく分からんまま終わっただろうなという気がする。必ず見るべきだが、文脈無しに気軽に勧められる感じの映画ではない。

 個人的にはシカゴパイル1が出てきたり、爆縮レンズの実験をしたりと、結構マニアックな部分が再現されているところが良かった。もちろんこれも予習無しでは何をしているシーンなのかさっぱりだろうけど。Wikipedia愛読者ならおなじみのハリファックス大爆発も登場する。

    終盤、オッペンハイマーがエンリコ・フェルミ賞を受賞するシーンとともにアインシュタインが語る部分があるが、これは2022年に公式に名誉が回復されたことについてのノーランなりの批判とも取れるだろう。全く根拠は無いが、映画オッペンハイマーが公開されれば政府のオッペンハイマーの扱いに不満の声が高まる可能性があった。これを予想して事前に批判を逸らそうという動きがあったのかもしれない。それならアインシュタインが劇中で語ったように、名誉回復はオッペンハイマーのためではなく、自分達のためだということになる。

 そして衝撃のエンディング。途中でV2ロケットの話が出てくるので、兵器に詳しい人は伏線に気づくかも。アメリカは原爆を作り、ドイツは作れなかったが、代わりに弾道ミサイルを生み出した。2つのテクノロジーが出会ったとき、世界は永久に変わってしまった。先見の明を持つオッペンハイマーにはそれが分かっていた。立ち並ぶミニットマンミサイル、全面核戦争、完全なる破壊・・・大気発火説は否定されたが、結局我々は同じ結果を起こしうる世界を作ってしまった。それを聞いてアインシュタインは口を閉ざす。彼もまたトリガーを引いた一人なのだ。第一次世界大戦の頃から生粋の平和主義者で、常に平和を愛してきたアインシュタインこそ、大統領に手紙を送り、まさに原爆開発を提案したその人だ。彼は自分の一時の懸念がもたらした「永遠の懸念」について悟ったのだと思う。


    オタクな話をすると、映画で登場するミニットマンはMk11再突入体(米空軍ではReentry Vehicleと言い、海軍ではReentry Bodyと言う)を搭載したタイプなので、現用のG型ではない。つまりミニットマンIかミニットマンIIということだが、実はどちらもオッペンハイマーが生きていた時代から存在する超古いミサイルだ。現用のミサイルを登場させて「未来を見通してました」感を出す狙いがあると推察されるが、オタクだと一瞬え?当時のミサイル?ええっと?どういうこと?ってなる罠がある。でもよく考えればオッペンハイマーがプリンストンの所長になってアインシュタインと話しているシーンは当然アインシュタインが存命中の出来事なので、1955年以前ということになる。この時代にはまだミニットマンは配備されていないのでやはりオッペンハイマーは未来を想像していたということで正しい。ノーランさん、オタクを試すのやめてください(やめないでください)。


 全体として、エンタメ要素皆無でかなり硬派な作りになっている。そんなハードコアな内容にもかかわらず世界的な大ヒットというからすごい。


 そしてTENETとのテーマのリンクも良い。インタビューでも知られている通り、前作『TENET』の問いは、”それが発明されなかったことにできるのか”というもの。一度獲得した知識は二度と消すことはできないという科学の基本的な営みの特性と、その結果引き起こされる色々な問題について示唆を与えられる。またTENETの中でオッペンハイマー博士は原爆による世界の破壊を「危惧」したと語られるが、オッペンハイマーのエンディングをみるに、それは危惧ではなく「確信」だったということが明かされる。別作品で伏線を回収するアツい展開だ。


 それから、個人的にはインターステラーやTENETで重要な役割を果たした因果律というテーマもオッペンハイマーとリンクしている。人はすぐ原爆投下の是非について議論したがるけど、過去の物事について、「もしあのときこうしていれば、今はこうだったはず」と因果を適切にシミュレーションするのはそんなに簡単ではない(というかほぼ不可能だと思う)。投下しなければ平和的に解決したかもしれないし、逆にもっとひどくなっていたかもしれない。それは誰にもわからない。

仮にその残虐性を認識しないままキューバ危機やエイブルアーチャ83を迎えていれば、異なる結果になっていた可能性もありうる。そういう意味で、当時の人々が最善ではなくても禁忌肢を選ばなかったことにせめてもの救いをもとめるしかない。それが我々の唯一の歴史なのだし。

劇中でオッペンハイマーが言う「世界は恐れない、理解するまでは。世界は理解しない。それを使ってしまうまでは。」は、このことを端的に表しているようにも感じられる。幸いにもこの世界は膨大な犠牲を払った代わりに核兵器の残虐性を理解することができたし、その結果として今日も僕の上には爆弾が降ってこない。今のところは。


 オッペンハイマーを観て、そんなことを考えさせられる週末だった。良い映画なのでぜひ観に行ってみてください!大迫力のサウンドで観る核実験のシーンは最高です!

核爆発で興奮するの、倫理的には問題がありそうだけど、これはこれで人間の持っている暴力性というか破壊への憧れみたいなのが垣間見れてエモい。僕は映画が始まってプロメテウスの説明が流れたときは「おっほーこれは天才の映画すぎる!」と大興奮して笑ってしまいました!ぜひ劇場へ!