2025年2月12日水曜日

映画『プレステージ』を見て創作哲学を考える

クリストファーノーランは誰もが認める最高の映画監督だが、彼の作品の中で一番はどれかというのは答えの分かれる質問だ。僕はインターステラーもTENETもインセプションもオッペンハイマーも大好きで、何度も何度もみた。でも一番自分に響いたのはプレステージだと思う。

プレステージは2人のマジシャンの対決を描く物語。映画の中でマジック対決が行われるだけでなく、映画全体も2人のマジックになっていて、我々視聴者は2時間かけてそのマジックを観させられる。最後にどちらが優れたマジシャンだったのかジャッジするのは視聴者自身。すごい映画だ。


とてつもない脚本の裏で、もう一つのテーマも流れている。劇中で技師のカッターがこんなことを言う。

「彼らはマジシャンです。ショーマンです。単純かつときに残酷な真実を派手に飾り立てて、観るものを驚かす。」

 

劇中で明かされる通り、どちらのトリックも至って単純だ。でもそれを「ちゃんと」やるためには徹底した信念と行動が必要になる。これはエンターテインメントに人生を捧げた2人の人間の物語だ。 異なる哲学を持つ2人の。

アンジャーは観客の喜ぶ顔を見るのがなにより嬉しかった。科学が発達し、世界から魔法がとかれた19世紀末。人々は物事の仕組みを知り、現実は平凡だということに気づいた。しかしそんな時代でも、マジックを見れば人は一瞬だけ世界の不思議を取り戻したような顔をする。アンジャーはそれを見るためなら何でもした。

一方、ボーデンは芸術性を愛した。完璧なマジックのためなら自分の人生さえも犠牲にする。彼にはその覚悟があった。ショーの演出ではアンジャーに劣ったが、マジック自体の腕は上だった。

彼らは互いに異なる哲学をもって競い合った。それは単にどちらのマジックが優れているかという勝負ではなく、どちらの哲学が優れているかの戦いでもあった。


観客を驚かせることが第一のアンジャーは技術的な解決策を求めてテスラに装置を作らせる。そしてマジックではなく「本物」を手に入れる。しかしその装置のせいで、最初は小鳥も殺せなかった彼は、次第に悪事に手を染めるようになり、すっかり心が荒んでしまう。

一方マジックの腕で勝負したいボーデンは双子の兄弟を一人の人間として見せるために徹底した偽装を行う。彼は完璧な瞬間移動マジックを手に入れたが、周囲の人々に双子であることを隠さなければならず、人生は虚偽にまみれ、人間関係は破綻していく。


アンジャーは技術を使う代償を払い、ボーデンは嘘をつくことの代償を払った。


これがこの物語の根底にあるテーマだと僕は思う。

プレステージを見て僕は、自分の創作が結局のところ何をもたらすのか。とか、自分にはどういう創作ができるのか。とかを考えるようになった。僕は徹底したショーマンにもなれないし、徹底した芸術家にもなれないかもしれない。それでも考えることには意味がある。

全てを得ることはできない。それがこの世界の理だ。何かを得るには何かを失う必要がある。自分は誰なのか?どうなりたいのか?何を得て何を失うのか?それは何のためなのか?そういうことを考えないといけない。

人生で最も重要なのは土台だ。結果ではない。少なくとも今の僕は理想主義というものをそう理解している。だから土台を大事にしたいし。土台についてずっと考え続けてる。答えのない問いを追い続けて。

現代の日常生活でそういう人間の根底にある問いについてじっくりと考える機会は毎日あるわけではない。プレステージはそういうことを考える口実にぴったりの映画だ。特に創作をする人に、おすすめです。